2023-06

＊ ＊ ＊ ＊ ――７年後 　 　ハイリゲンクロイツ王国は新しい時代を迎えようとしていた。 国王フリードリヒ３世が退位を決断したのだ。老年期とはいえ、退位をするにはまだ若く慰留する声もあったが、一...

神殿の重い扉が開き、荘厳なパイプオルガンの響きに包まれる。 　高い天窓から射し込む光も、精緻な装飾が施された大理石の神殿の建物も、装飾の花も真っ白で、ここは天上世界かと思われた。 　父にエスコートされて歩みをすすめると、列席者...

　雲一つない、どこまでも抜けるような青空。 　ハイリゲンクロイツ王国は祝いの熱気に包まれていた。王国各地のどんな小さな村であっても、人々はめいめいに一張羅を着飾って広場に集まり、魔道具が映し出す大神殿の前の映像を見ている。 　...

ドーム型の天井にある天窓から穏やかな光がさしこんでいる。 大神殿の広間のあちこちで、神官や王宮から派遣された者たちが物を運び込んだり、手順を確認したりと準備をする姿が見られる。 赤い絨毯が敷かれた祭壇の前で私は恒例となった”聖...

轟音が天地をつんざく。地響きが大地を激しく揺さぶる。 岩がガラガラと崩れていく音がして、耳の奥がキンとする。 烈しいほどの眩さの中にいて、視覚は失われているが、ただすぐそばにある存在は確かで、全感覚をもってその存在を求める。 ...