「ま。待ってください、限界って…」
私の身体を挟んで寝台に両腕をついたルドルフは荒い息をしている。
「魔力が暴走しそうだ」
そう言った王太子の頬は赤く、サファイアの瞳には妖しい光がさしている。首筋には玉のような汗が光り、とてつもない色気を放つ。
「え?ちょ…なぜ…?」
呆気にとられながら、私は切なそうに目をすがめるルドルフを見上げた。
「俺も2つの魔力を持っている。お前も分かるだろ?魔力過多症だ。もうちまちまと出している余裕はない。」
―そうか。殿下にはまだ魔力に余裕があると思っていたけど、2つの魔力を持っているなら話は別だ。私が早い時期に魔力過多になって、力を暴走させたのも今なら説明がつく。
え、でも、待って。魔力を出すって…
この後に及んでぐるぐると思考を巡らせていた私の目の前がふと陰り、私の心臓はとくりと音を立てた。
いつも魔力を与えられるときのように、このまま貪られると思ったが、触れるだけですぐに離れ、ぎゅうと抱きしめられた。戸惑いつつ見上げると、王太子の整った美しい顔があり、私を愛おし気に見つめていた。
「あの…」
私が言葉を紡ごうと開いた唇にルドルフの指がそっと触れ、優しくなぞられた。彼の瞳が切ない色に染まる。彫刻のような美麗な顔に、壮絶な色気をともなう姿に、心臓が高鳴る。
「あの女が聖女になると思ったから、婚約を破棄して俺から離れようとしたんだろ?」
私は小刻みに首を縦に振る。
「今度は…お前を必ず守るから…どうか俺を受け入れてくれ。」
ルドルフは切なげな、かすれ気味の声で言う。泣いているのではないかと思われた。
「は…い」
私は戸惑いつつもそう答えた。
私の知りえなかった過去や未来に頭はまだ整理できていない。でも、確かなのは、現在の私の感情。もう気持ちを止めなくてもいいという安堵と嬉しさ。私の心はそれだけでいっぱいになっていた。
ルドルフは優しく目を細め、微笑む。私はそのままを受け入れた。今までで一番気持ちが重なっていることを実感する。私の瞳を見つめる熱を持った青い瞳。そこに映っているのは私だけ。それを確信して心が満たされた。
*
*
*
窓から射し込む朝日が私を目覚めさせる。自室と配色の異なる部屋の様子に一瞬困惑するが、すぐに王太子の部屋だったと認識する。
「エラ、起きたか」
すぐ隣から聞こえるルドルフの声にびくりと身体が反応する。
「…えっ」
声を出そうとするが、喉が枯れて上手く出せない。身体は何事もなかったかのように、いやむしろ2度の人生合わせて一番体調がいいかもしれない。騎士団の地獄の訓練に今なら耐えられそうだ。
ふぁ」 ルドルフは小さく欠伸をして上半身を起こす。黄金色の髪を気だるげに掻き上げた。骨ばった鎖骨や厚い胸板が露わになって強烈な色気を放っていて、私は思わず目を逸らす。
私がワタワタしていると、王太子の手がするりと腰の辺りに伸びてきた。顔を近づけられ、胸がどきりとする。身体が期待に疼いた。
「風呂に入りたいか?」
「へっ?あ…はい」
期待したものが与えられず私は反射的に答える。ホッとしたような残念なような気がした。そんな私の心を読んだように、ルドルフは、にやっと笑った。
私が昨夜初めて足を踏み入れた隣の部屋には階段があり、その下が浴室になっていた。水泳訓練でもできそうなくらいの広さがあって、私は思わず感嘆の声を漏らす。
その広い湯舟にゆっくりつかって癒される…というわけにはいかなかったが、結果的にさらに元気になって上がってくることになる。
浴室を出るときちんと二人分のガウンが用意されてあった。あとからハンナに聞いた話では、朝、私が寝室にいなかったことで、侍女たちは大慌てだったらしい。王太子の侍従が、寝室で眠りこける私たちを見つけ、諸々の手配をしたとか。恐らく風呂も、だ。王宮の使用人の優秀さは相当なものだと思う。
「貸して」
濡れた髪を自分で拭いていると、ルドルフが手を差し出す。渡したタオルで私よりも丁寧に私の髪を扱う様が、恥ずかしいような嬉しいような気持ちになる。
「殿下がこんなに女性に尽くす人だとは思いませんでした」
「俺も知らなかったさ。」
そう言って、艶々と健康的に光を帯びる私の銀髪を一筋すくった。
ルドルフは気遣ってくれるが、本当に可笑しくなるくらいに魔力が身体の隅々に満ち満ちて体力も気力も充足しているのだ。元気があり余っていた子供の頃のようだ。むしろこれほどまで私に魔力を与えたルドルフの方が心配になるくらいなのだが、彼の方は、憑き物が落ちたかのようにすっきりとした顔をして、目の下にできていた隈もすっかりなくなっている。
「そうか。無理はさせたくないんだが、魔力判定の儀式まで時間がない。話すこともあるから神殿に行くぞ。準備してくれ」
そう言ってルドルフは侍女を呼び、私を引き渡した。
「神殿ですか…?じゃあ、ちょうどいいですね」
着替えを手伝ってくれたハンナはそう言い、年配の侍女は顔色を変えることなく、首元の詰まった紺色のドレスを持ってきた。若い侍女が、私の背中一面に散る赤い痣を心配そうに見て、「薬をお持ちしましょうか?」などと言い、ハンナに部屋の外に放り出された。
「かわいそうに。なぜ仕事を外されたか分かっていないんじゃない?」
「あの子はまだ若いから刺激が強すぎます。」
―私と一つしか変わらなかったはず…。今の、だけど。
「お嬢様、ハンナは安心しました。」
「何が?」
「私は、お嬢様が殿下との結婚をためらわれていると思っていました。」
―それは、そう、ね。
「ずっと殿下のご寵愛は明らかだったのに、最近のお嬢様は受け入れられない様子でしたからね。婚約の破棄を申し出られていたのは魔力がなくなったから、というだけではないのでないかと思っていたのです。」
産まれたときから面倒を見てくれているハンナには、私の気持ちがよく見えていたようだ。以前の記憶を取り戻す前の私がどんな風にルドルフと接していたのか、その記憶がない。
今度はその事実が私を不安にさせた。ルドルフは記憶のない私とやり直そうとしていたのに。”以前の”私でいいのだろうか…。
「殿下のことが好きではなくなったというのではないのよ。ちょっと心境の変化…というか。私が妃になってはいけないのではないかと思ったの。」
「まあ。ずっと王太子妃を目標に頑張ってこられたというのに。…でも、心を決められたのですね。」
―心を決める、か。
その立場になる覚悟はとうの昔に決めていた。いずれは王になるルドルフを支え、国のために尽くす覚悟を。だが、以前はミアが妃に決まることでその希望はうち崩れたし、現世ではいずれミアに譲るものだと思っていたから、あまり深く考えてこなかった。そうか。ルドルフを受け入れるということは妃になるということだ。
私はこれから担う重責のことを思った。今のルドルフは大国を統べる王の息子というだけではない。光の魔法を使う、聖人、なのだ。その彼をどう支えるのか。考えると身が縮む思いがする。だが、私は、彼の側にいていい、ということ、ミアのために身を引かなくてもいいこと、それがただ嬉しかった。
I said, “Wait a minute. Wait, you said you’re at your limit…”
Rudolph, his arms on the bunk across my body, is breathing roughly.
My magic is about to run out of control.”
The crown prince’s cheeks are red and his sapphire eyes have a bewitching light in them. Beads of sweat glistened on his neck, giving him an incredible sex appeal.
What? Why…?
Stunned, I looked up at Rudolph, who was staring wistfully into my eyes.
I have two magic powers, too. You know what it is, don’t you? I’m overloaded with magic. I can’t afford to be so nitpicky anymore.”
-I see. I thought His Highness still had some magic power to spare, but if you have two magic powers, it’s a different story. Now that explains why I had a magic overload early on and let my power run wild.
Eh, but wait. You’re saying I’m going to have magical power…
As I was still thinking about this, something soft and warm touched my lips, and my heart skipped a beat.
I thought I was going to be devoured, as I always am when I am given magical power, but the touch was enough for me to immediately pull away and he hugged me tightly. I looked up, bewildered, and saw the Dauphin’s beautiful, well-shaped face, gazing lovingly at me.
Um…”
I opened my lips to speak, but Rudolph’s finger gently touched my lips and traced them gently. His eyes turned sad. My heart races at the sight of his beautiful, sculpted face, accompanied by a fierce sexuality.
‘You thought she was going to be a saint, that’s why you broke off the engagement and tried to get away from me, didn’t you?’
I shake my head in small increments.
‘This time…I will protect you…please accept me.’
Rudolph says in a sad, muffled voice. I thought he might have been crying.
Yes…yes.”
I answered, puzzled.
My head still couldn’t wrap around the past and future I had never known. But what is certain is my present feelings. Relief and happiness that I don’t have to stop feeling anymore. My heart was filled with just that.
Rudolph gently narrowed his eyes and smiled. He brushed his lips on mine, and I accepted. It was the most emotional kiss I had ever felt.
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