「そういや、エラ。お前デビュタントはどうするつもりだ?そろそろドレスを準備しないといけないから聞いてこいってお袋に言われたんだ。」
 ̄そうか…もうそんな時期か。
舞踏会シーズンの幕開けオペラ座舞踏会。その年に社交界デビューをする貴族の子女のお披露目の場だ。白のイブニングドレスにティアラをつけた若いレディーたちが一列になって入場する様は圧巻で、女の子たちの夢であり、憧れだ。年頃の娘をもつ家庭では何か月もかけて衣装を準備する。私はちょうど今年社交界デビューできる年なのだ。
以前の私もそれは楽しみにしていて、ドレスを何着仮縫いにだしたか。ティアラデザインだけでなく、石一つ一つの産地にまでこだわった。父にエスコートしてもらって、ルドルフとも踊ってもらって、あのときの私は本当に幸せだった。もちろん、ルドルフは婚約者候補の全員と踊ってたけど。最高に楽しかったのは、次の年まで。アカデミーを卒業する年のオペラ座舞踏会は、ルドルフがミアと踊るのを会場の隅で嫉妬に狂いながら見つめるはめになる。あぁ、思い出したくもない。
「そうですわね…。お母様のデビュタントのときのドレスを直して着ますから急がなく
ていいです。ティアラはおばあ様のものを使いますわ。」
「は?お前…デビュタントだぞ?ずっと楽しみにしてたじゃないか。そんなのでいいのか?」
「ダンスを踊るだけの体力がありませんもの。会場に行ってデビューしたという形だけで十分でしょう。お父様は楽しみにしてらっしゃるでしょうから、エスコートをお願いしますわ。」
「いや、そうはいっても…」
エリアスは栗色の巻き毛をくしゃっと掻いて、まいったな、という顔をした。
体力を考えれば、来年以降の方がいいとは思う。だが、舞踏会は魔力判定の儀式の後だ。絶対にミアが聖女と分かった後の舞踏会でデビューなんてしたくない。再来年には持ち越したくないのだ。だからさっさと終わらせておきたい。
ふと視線を感じて顔を上げると、ルドルフがじっと私を見ている。不思議そうに見つめて、私が何かあるのかと思って目線を合わせると、彼は柔和な笑顔を私に向けた。穏やかで優しい瞳。
 ̄その顔、本当にやめてほしい…
先ほどの決意があっという間に揺らぎそうだ。
「エラ…これは?」
ルドルフが、テーブルの上に乗っている私が王宮図書館から借りてきた本を指して言った。兄は、両親にどう報告しようか懊悩している。
「農作物の本ですか?」
婚約破棄後の生活を見据えて、領地経営の勉強をはじめた。あまり大ぴらにするのもまずいので、経営学に関する専門書は図書館で読むことにしていて、当たり障りのない本を持ち帰っている。
「我が家の領地で南方の果物を作っているのですが、それをカリーナの店で使ってもらえないかと思っているのです。果物を使ったケーキは少ないですから。」
ハイリゲンクロイツのケーキは、クリームやジャムを使ったものが多く、生の果物をつかうことは少ない。新鮮な果物はそのまま食べるのが一番だと思っている人が多いからだ。
「ベルンハルト家の令嬢か。かなりの人気店らしいな。」
「ええ。どれも本当に美味しいのです。」
確かに、とルドルフは頷いた。
カリーナにはあまり口外しないでくれと言われているが、カリーナが私の身元を探すのに、身分を明かしたので、あの場にいた人間にはカリーナが”リーナ”の店主ということは分かってしまっている。その上で、彼らは口外しないでいてくれているのだ。
「必要なら、王宮の植物園も使うといい。あそこには珍しい植物も色々と育てているウルバン博士は、変わり者だが知識は豊富だ。育て方は彼に聞けばいい。」
「あ…ありがとうございます。」
いずれ私が受け継ぐ予定の領地の作物を有効活用して、婚約破棄後の収入確保を狙っていただけなのだが、王族にしか立ち入りを許されない植物園の許可を頂いてしまった。一応婚約者としての立場があるとはいえ、どんどん深入りしているような気がする。
*
*
*
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ここのところ、アカデミーが休みの日には、カリーナに招かれて邸宅で新作ケーキを試食させてもらっている。侯爵家の邸宅ではなく、カリーナとペーターの母親の実家である子爵家だ。
二人の母親はベルンハルト侯爵の後妻で、カリーナがケーキや菓子を作って店をやるというのは表立ってはやりにくいらしい。そこで母親の実家を使わせてもらっているということだった。カリーナ専用に祖父の子爵が作ってくれたというキッチンは、広く、食材や様々な器具が並ぶ様子は、実験室のようでもあった。
「このチーズケーキ、おいしい!」
「生クリームをたっぷり入れてみたの。クリーミーでしょ?エラがもってきてくれたマンゴーもペーストにして乗せてみたの。とっても合うわよね?」
「うんうん。こっちのピスタチオのケーキもふんわりしていてとろけるね。殿下が好きそうだな…。半分持って帰ってもいい?」
カリーナはクスクス笑う。
「ほんとに二人、仲がいいのね。」
「いや…そんな」
ついルドルフのことを話題に出してしまうのは、なぜだろう。
カリーナは目じりを下げて柔らかな顔になる。
「小さい頃は、私も侯爵家の娘だし、殿下と歳も近いから婚約者候補の一人だったらしいのだけど。気づいたときには殿下はエラにべったりで、子供同士のお茶会なんかでもずっとエラの側にいたもの。10歳の時にはもう婚約者に決まってたものね。お父様とか、ノイブルク侯爵なんかは反対してたけど、エラは魔力も高いし、優秀だし、おまけにこんなに美人だし。ビアンカ様はともかく…。私は競う気も起きなかったな。」
 ̄うーん。そんな経緯なかったはずなんだけどな…。
ルドルフが私にべったりなんてありえない。いつも婚約者候補たちには平等に接していたような気がする。いや、以前の私は、自分だけ特別扱いされてる!って思っていたけれどね。自分が特別じゃないのは、聖女が現れたときに分かった。ミアに対する態度は私とはまるで違うから、そこで、あぁ、自分は特別じゃなかったんだ、と悟った。
とはいえ、今こうして婚約状態にあるのはやはり王太子の意向が強いようだ。それだけでも知れてよかった。いくら何でもルドルフに、私たちの婚約ってどうやって相成ったんですっけね?なんて聞けないから。つまり、ルドルフの意向ってことは、ルドルフの気が変われば婚約は破棄される。だからミアが現れれば、すぐにでも婚約破棄される可能性が高いということだ。
 ̄ミアは今どうしているのだろう…
「カリーナ。アカデミーはどんな感じなの?」
ミアの名前が出てくるとは思っていないが、何か様子が分かれば、と思ったのだ。
「そうね…。エラが体調を崩したらしいってことが噂になってるって話はしたわよね。」
私は頷いた。四大侯爵家の一つの家の令嬢で王太子の婚約者、しかもアカデミーを首席で入学するはずだったのだから当然注目の的ではあっただろう。
「それがいつまで経っても入学してこないから、重病説が流れてるの。」
確かに、この間も魔力を失って気絶したし。
「あら。そうなの?」
「それだけじゃなくて、カレンベルク侯爵令嬢では婚約者はもう務まらないから、改めて婚約者選びが行われるって噂が立ってね。アルテンブルク侯爵令嬢と、ヴァルトシュタイン伯爵令嬢がそれぞれ派閥を作って争いはじめてたの。黙ってないのが、ビアンカ様よね。アッヘンバッハ伯爵令嬢を使って、アカデミー内に親ビアンカ派を広めようとしてるの。それぞれが勢力拡大のためにしょっちゅうお茶会を開いてて招待状を配りまくってる。おかげで、うちのケーキは飛ぶように売れるんだけどね。」
カリーナは商売人の顔をして笑った。
「そう…そんなことになっているのね」
「しょっちゅうこうやってエラと話している私には、見ていておかしくって。みなさーん。カレンベルク侯爵令嬢は今、王太子宮に住んでて、殿下と朝晩チューしてますよ~って言ってやりたい!」
「カリーナ…。ほんとにやめて…」
恥ずかしすぎて死ぬ。
カリーナはケラケラと笑った。
「わかってるよ。でもさ、あんまり放置するのも良くないと思うけど?殿下もご存じないとは思えないんだけど」
私は腕を組んだ。
「うーん。多分…あえて放置してるかも。」
「あえて?」
「うん。令嬢って暇じゃない。お茶会に観劇、新しいドレスのことくらいしか頭になくて噂話が大好きで。カリーナみたいに夢中になれるものを持ってる令嬢なんて滅多にいないくらい。でもそれって意外と侮れなくて家同士の争いに発展することもあるじゃない?あまりに目に余るようなら、咎めるでしょ。あえて放置するのは何か考えがあってのことかもしれない。」
アカデミーで起こっていることをあえて放置する理由…。王太子の考えはよくわからないけれど、兄が私に伝えてこない、ということは多分ルドルフに口止めされている。私が知ったら、アカデミーに乗り込んでいって問題を起こす、と思われているだけかもしれないけれど。
「エラがいいなら…いいけれど…。有力貴族の令嬢が、もしかしたら王太子妃になれるかも
って婚約を見直したりしてるらしいから…。ヴァルトシュタイン伯爵令嬢も、カロリング伯爵の令息との婚約を取りやめにしたらしいのよ。」
「あー。それって、カリーナもベルンハルト侯爵に言われたりする?」
「ちょっとは言われたけどね。でも、父はもう諦めてるよ。お菓子のことばっかり考えてるからアカデミーの成績もさっぱりだし。兄も最近は忙しいみたいで、しょっちゅう外出してる。次期侯爵なんだからもっと色々やることはあると思うのだけど。」
カリーナは肩を竦めた。兄のウルリッヒとは年が離れていて、母親が違うこともあり、気安く離す仲ではないらしい。
 ̄どうせ婚約破棄されることには変わりないのだから、放っておいてもいいのだけれど…。
カリーナにまで迷惑をかけるような事態はなるべくなら避けたい。ちょっと殿下にきいてみるか…。
Well, Ella, what are you going to do about your debutante? What are you going to do about your debutante? My mom told me to ask you because I need to get my dress ready soon.”
Polish I see…it’s that time of year already.
The Opera Ball, the opening of the ball season. The Opera Ball is the occasion for the unveiling of the children of the nobility who will be making their social debut that year. The sight of young ladies in white evening gowns and tiaras entering the ball in single file is a sight to behold, a dream and a dream of every girl. Families with daughters of that age spend months preparing their outfits. I am just this year old enough to make my debut in the ballroom.
I used to look forward to it, and I can’t tell you how many dresses I’ve had to have fitted. I was particular about not only the tiara design, but also the origin of each stone. I was so happy to have my father escort me and Rudolph dance with me. Of course, Rudolph danced with all of his potential fiancées. The best time I had was until the next year. The year I graduated from the Academy, the Opera Ball, I had to watch Rudolph dance with Mia in the corner of the hall, jealous. Oh, I don’t even want to remember.
‘Yes… I’ll fix the dress from your mother’s debutante and wear it, so there’s no hurry.
There is no need to rush. The tiara will be your grandmother’s.”
What? You…it’s your debutante, right? I’ve been looking forward to it for a long time. Is that what you want?
I don’t have the stamina to dance. I don’t have the physical strength to dance. Just going to the venue and making my debut will be enough. I know your father will be looking forward to it, so please escort me.
No, even so…”
Elias ruffled his chestnut-colored curly hair and made a face.
The most important thing to remember is that the ball is a magical event. But the ball is after the ritual of magic power judgment. I definitely don’t want to make my debut at the ball after Mia is found to be a saint. I don’t want to carry it over to the next year. That’s why I want to get it over with.
I suddenly felt a gaze on me and looked up to see Rudolph staring at me. He stares at me curiously, and when I look at him to see if there is something wrong, he smiles softly at me. Calm and gentle eyes.
That Polish face, I really wish he would stop…
My earlier resolve seems to be quickly shaken.
‘Ella…what’s this?”
Rudolph said, pointing to the book I had borrowed from the royal library on the table. My brother is anguishing over what to report to our parents.
‘Is it a book about crops?’
I began to study the management of the estate in anticipation of life after the engagement. He has been taking home some books on business management from the library because he doesn’t want to make too big a deal out of it.
I’m growing some southern fruit on our estate, and I’m wondering if you could use it in Kalina’s store. We don’t have many cakes made with fruit.”
Heiligenkreuz’s cakes are usually made with cream or jam, and rarely use fresh fruit. Many people think that fresh fruit is best eaten as it is.
I heard that your restaurant is quite popular. I hear it’s quite a popular restaurant.
Yes. Yes, everything is really delicious.
Rudolph nodded in agreement.
Karina told me not to say much about it, but since Karina revealed her identity to find me, everyone there knew that she was the owner of Leena’s. And they were not allowed to say anything about it. They have kept their mouths shut.
If necessary, you can use the botanical garden at the royal palace. Dr. Urban, who grows a variety of rare plants there, is an eccentric but knowledgeable man. Ask him how to grow them.
Thank you very much.
I was just aiming to secure income after the engagement by making good use of the crops of the estate I will eventually inherit, but I have been given permission to visit the botanical garden, which only royalty are allowed to enter. Although I have a position as a fiancée, I feel that I am getting deeper and deeper into it.
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Recently, on days off from the academy, I have been invited by Karina to sample her new cakes at her mansion. It is not the residence of a marquess, but the family home of Carina and Peter’s mother, a viscount.
Their mother is the second wife of the Marquess Bernhard, and it is apparently difficult for Karina to open a store making cakes and pastries. So they were allowed to use their mother’s family home. The kitchen, which her grandfather, the Viscount, had made especially for Karina, was spacious and looked like a laboratory with all sorts of ingredients and utensils.
This cheesecake is delicious!
I put a lot of whipped cream in it. Isn’t it creamy? I also put some mango paste that Ella brought over. It goes really well with it, doesn’t it?
I put mango paste on top of it. This pistachio cake is soft and melts in your mouth. I think His Highness would like it. Can I take half of it home?
Carina giggled.
You two really get along well, don’t you?
No…not really.”
I wonder why I keep bringing up the subject of Rudolph.
The two of them are very good friends.
‘When I was little, it seems I was one of the potential fiancées because I am also a daughter of the marquise and I am close in age to His Highness. By the time I realized it, His Highness was so attached to Ella that even at children’s tea parties, he was always by her side. Her father and the Marquis of Neuburg were against it, but Ella was very powerful and talented, and she was also very beautiful. Bianca, on the other hand…. I didn’t even feel like competing.”
Polish hmmm. I’m sure it wasn’t like that….
There is no way Rudolph would have been all over me. I feel like he always treated his potential fiancées equally. No, I used to think I was the only one being treated special! I used to think that I was special. I knew I wasn’t special when the saintly woman showed up. Her attitude toward Mia was so different from mine that I realized that I wasn’t special at all.
However, it seems that the Dauphin’s intention is still strong for us to be engaged as we are now. I was glad to know that. I couldn’t ask Rudolph how our engagement came about, no matter how much I wanted to. I couldn’t ask Rudolph how our engagement was arranged, no matter how much I wanted to. In other words, Rudolph’s intention means that if he changes his mind, the engagement will be called off. So if Mia shows up, there is a good chance that the engagement will be called off immediately.
I wonder what Mia is doing now…
Karina. What’s the academy like?”
I don’t expect Mia’s name to come up, but I thought it would be good to know what’s going on.
I heard that Ella is not feeling well. I told you that there are rumors that Ella is not feeling well.
I nodded. She was the daughter of one of the four great marquises, the fiancée of the crown prince, and was supposed to enter the academy at the top of her class, so of course she was the center of attention.
Since she has not enrolled in the academy for a long time, there are rumors that she is seriously ill.
It’s true that she fainted the other day because she lost her magic power.
I’m not sure if that’s true or not. Is that so?
Not only that, but there are rumors that the Marquise of Kallenberg can no longer serve as her fiancée, and that a new selection of fiancées will be made. The Marquise of Altenburg and the Countess of Waldstein have formed their own factions and are fighting each other. The one who would not be silenced was Lady Bianca. She is using Countess Achenbach to spread the pro-Bianca faction within the Academy. Each of them holds tea parties frequently to expand their power, and they are handing out invitations all over the place. Thanks to them, our cakes are selling like hotcakes.
Karina laughed with a businessman’s face.
I see… that’s how it’s supposed to be.
I talk to Ella like this all the time, and it’s funny to watch. I’ve been talking to Ella a lot and it’s funny to watch. I want to tell her that the Marquise Karenberg is now living in the royal palace and is having morning and evening kisses with His Highness!
“Karina…. Really stop…”
I’m so embarrassed I’m going to die.
Karina laughed.
I know,” she said. But you know, I don’t think it’s a good idea to leave it too long, do you? I don’t think His Highness doesn’t know about this.”
I crossed my arms.
‘Ummm…maybe…maybe we should just leave it alone. Maybe… maybe he’s daring me to leave him alone.”
“Dare?”
Yes. A young lady doesn’t have much time on her hands. They only think about tea parties, plays, and their new dresses, and they love to gossip. It’s rare to find a daughter who has something to be crazy about like Carina does. But that’s not to be underestimated, and it can lead to family disputes, you know? If it’s too much to look at, you would condemn it. But leaving them alone may be because they have something in mind.”
The reason why he dared to leave what is happening at the academy unattended…. I don’t know what the Dauphin is thinking, but the fact that my brother has not told me probably means that Rudolph has kept quiet about it. If I knew, he might just think that I would go to the academy and cause problems.
If Ella is okay with it…fine…but…. A daughter of a powerful noble family might be able to become the crown princess.
I heard that a daughter of a powerful noble family is reconsidering her engagement to become the crown princess. I heard that Countess Waldstein also canceled her engagement to Count Caroling’s son.
Oh, I see. Does Marquis Bernhard tell you that too?
She was told a little, but my father has already given up. But my father has already given up. I’m not sure if it’s a good idea or not, but it’s a good idea. My brother is also very busy these days, he’s out a lot. He’s the next Marquis, so I’m sure he has a lot more to do.
Carina cowered. She and her brother Ulrich are not easy to get along with because of their age and their different mothers.
She could leave him alone, though, since he was going to break off the engagement anyway….
I would like to avoid a situation that would cause trouble even for Karina. I’ll ask His Highness about it….
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