2022-05

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ウィーンの月が奏でる音楽

エピローグ

ウィーンはまた夏の季節を迎えていた。中庭に植えられたねむの木は、薄い紅色の花を枝先につけて桃のような甘い香りを放っている。陽があまり高くならないうちにリクライニングチェアを出してのんびりするのが最近の楽しみだ。ベルガモットの香りのハーブテ...
ウィーンの月が奏でる音楽

第十一章 再び

1  エレナがウィーンに帰ると聞いて、一番残念がったのは紫乃だった。「観劇に行ったり、お買い物ももっとしたかったわ。海外だって行ってもよかったのに…。」義母には本当に良くしてもらったが、そのうち彼女の好きな着物で、着せ替え人形できる...
ウィーンの月が奏でる音楽

第十章 動揺

1 ここのところ智己は家を空けることが多くなっている。現在ウィーン支社長を務める智己は、各国との交渉のために東欧を中心に欧州各地への出張に行くことも多かったのだが、創業家の次男でもあることから本社での役割も大きく、専務取締役という肩...
ウィーンの月が奏でる音楽

第九章 家族

1  パリ、パレ・ガルニエ。世界三大オペラ座の一つであり、音楽と舞踊の殿堂で、燦然と輝く絢爛豪華な外観と内装をもつ。オペラやバレエの劇場としてだけでなく、宮殿以上に煌びやかな装飾、シャガールの天井がなどの見所も多く、建物そのものが観...
ウィーンの月が奏でる音楽

第八章 幸運

1 東京にいる間にエレナには訪ねておきたい人がいた。田園調布の古くからの邸宅が軒を連ねるエリア。その一角にある一軒家。他の家と比べて大きくはないが手入れの行き届いたイギリス式庭園を持ち、主の慎ましやかだが品格のある性格を映したかのよ...
ウィーンの月が奏でる音楽

第七章 決戦

1 決戦の日はこの日と決まっていた。ウィーンを立つときに、エレナは澤野の家に日本に帰ることと結婚したことを伝えた。田島からの報告によれば、澤野の家は騒ぎになっていたらしい。といっても義理の娘を愛人にしようというのは、華子と忠利、幸利...
ウィーンの月が奏でる音楽

第六章 夢への道のり

1  ケビンに紹介されたワークショップは、音大の教授陣から直接指導をしてくれるというもので、夏休み期間を利用して国内外から学生が参加する。初日にクラス分けが行われて、合格すれば、教授陣から直接指導を受けられる。不合格だと聴講生という...
ウィーンの月が奏でる音楽

第五章 弟

1  次の週末、智己とエレナは、エレナの弟、留加を迎えに空港にいた。エレナは、到着ゲートから出てきた愛しい弟に駆け寄り、抱きしめた。15歳の留加は半年前に日本を出てから背も高くなって、大人びていた。「久しぶりね!留加。大きくなったわ...
ウィーンの月が奏でる音楽

第四章 月~ルナ~

1  ウィーン旧市街の一等地に建つ5階建ての広いアパートメントであるが、智己とエレナの身の回りの世話を任されているアンナがほぼ一人で管理をしていて、他に智己のボディーガード兼運転手のレナードが住み込んでいるだけである。 智己自身は身...
ウィーンの月が奏でる音楽

第三章 甘い生活

 細長い格子窓のカーテンの隙間から差し込む光の眩しさでエレナは目を開けた。身体を動かそうとしたが、容易に動かない。背中の後ろから逞しい腕が伸びて身体に乗っていた。何とか身体を捩りさっきまでと反対の方を見れば、整った男の寝顔があった。長いま...
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